ジョージ・ソロス|市場は本当に正しいのか

株価が上がっているとき、これからも上がり続けるような気がする。反対に、株価が下がり始めると、もっと下がるのではないかと不安になる。

相場を見ていると、周りの人たちと同じような気持ちになることがあります。

でも、みんながそう思っているからといって、その考えが正しいとは限りません。

「市場は常に間違っている」という言葉で知られるジョージ・ソロス。彼は、1992年のポンド危機で大きな利益を上げた投資家として有名です。

今回は、彼がどのように市場を見ていたのか、考えてみたいと思います。

戦争を経験し、哲学を学んだ投資家

ソロスは1930年、ハンガリーのブダペストに生まれました。ユダヤ系の家庭に育ち、第二次世界大戦中はナチスによる迫害を経験しています。

戦後はイギリスに渡り、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで学びました。そこで哲学者カール・ポパーの思想に影響を受けたことは、後のソロスの考え方にもつながっています。

投資家というと、経済や企業の数字を分析する人というイメージがあるかもしれません。

もちろん、それも大切です。ただ、ソロスが注目したのは、数字だけではありませんでした。

市場に参加している人たちが何を信じ、どう行動するのか。そして、その行動が市場そのものをどう変えていくのか。

人間の考え方と市場の動きの関係に目を向けたのです。

人々の思い込みが、相場を動かすことがある

ソロスの投資理論を理解するうえで重要なのが、「再帰性」という考え方です。

少し難しい言葉ですが、考え方そのものは身近な相場にも当てはめられます。

例えば、ある企業の株価が上がり始めたとします。

投資家は、株価が上がっているのを見て「この会社はこれからも成長するのではないか」と考えます。買う人が増えれば、株価はさらに上がるかもしれません。

株価が上がることで会社への注目が集まり、資金調達や事業展開に追い風が吹くこともあります。そうなれば、最初は期待にすぎなかったものが、実際の成長につながる可能性もあります。

一方で、期待が先行しすぎれば、企業の実力以上に株価が上がってしまうこともあります。何かをきっかけに投資家の見方が変わると、今度は売りが売りを呼ぶ展開になるかもしれません。

人々の考えが価格を動かし、その価格の変化がまた人々の考えや行動に影響を与える。

ソロスの再帰性理論は、このような相互作用に注目したものです。

市場はいつも合理的に動くとは限りません。ただし、だからといって、いつも市場が間違っているというわけでもありません。

大切なのは、今の株価が何を織り込んでいるのか、そして、その前提が変わり始めていないかを考えることではないでしょうか。

ポンド危機で何が起きたのか

ソロスの名前を世界に知らしめた出来事が、1992年9月のポンド危機です。

当時のイギリスは、欧州為替相場メカニズム(ERM)という制度のもとで、ポンドの為替レートを一定の範囲に維持しようとしていました。

しかし、イギリスの経済状況と、ポンドを一定の水準に保とうとする政策との間には、無理が生じていました。

ソロスが率いる投資ファンドは、ポンドが下落すると考え、大規模なポンド売りを仕掛けました。

イギリス政府はポンドを支えるために金利引き上げなどの対応を試みましたが、最終的にはERMからの離脱を余儀なくされます。

この日は「ブラック・ウェンズデー」と呼ばれています。

ソロスのファンドは、この取引で巨額の利益を得たとされています。ただし、イギリスの政策が行き詰まった背景には、経済状況や金融政策など、さまざまな要因がありました。ソロス一人がイギリス経済を動かしたという単純な話ではありません。

この出来事から考えたいのは、政府が維持しようとしている為替水準と、実際の経済状況がかみ合わなくなったとき、何が起きるのかということです。

相場では、政策や制度があるからといって、その状態がいつまでも続くとは限りません。市場参加者がその矛盾に気づき、同じ方向に動き始めれば、大きな値動きにつながることがあります。

みんなと反対に動けばいいのか

ソロスの話をすると、「人と反対のことをすれば儲かるのではないか」と考える人もいるかもしれません。

でも、私はそう単純なものではないと思っています。

みんなが買っているから売る。みんなが売っているから買う。それだけでは、逆張りというより、ただ周りと違うことをしているだけです。

大切なのは、なぜ多くの人が同じ方向に動いているのかを考えることです。

その期待には、実際の業績や経済状況に裏付けがあるのか。それとも、期待だけが先に膨らんでいるのか。

反対に、株価が大きく下がっているときも、単に売られすぎだと決めつけることはできません。企業の業績が本当に悪化している場合もあれば、市場全体の不安が必要以上に広がっている場合もあります。

同じ株価の下落でも、その背景によって考え方は変わります。

だからこそ、価格だけを見るのではなく、その裏側で何が起きているのかを考える必要があるのだと思います。

相場の動きに、少し疑問を持ってみる

株価が急上昇しているとき、ニュースやSNSでは、その企業の将来性を評価する声が増えることがあります。

反対に、相場が急落すると、先行きを悲観する意見が一気に増えることもあります。

もちろん、そうした意見が正しい場合もあります。ただ、周りの意見が強くなればなるほど、自分でも同じように考えていないか、一度立ち止まってみてもいいのではないでしょうか。

今の株価は、どんな期待や不安を反映しているのか。もし、その期待が外れたらどうなるのか。反対に、みんなが心配していることが解消されたら、相場はどう動くのか。

こうした問いを持つことは、ソロスの考え方を学ぶうえでも参考になります。

相場は、企業の業績や経済指標だけで動いているわけではありません。人々の期待や不安、そしてその変化も、価格を動かす要因になります。

ただし、周りと違う意見を持つこと自体が目的ではありません。自分の考えが正しいとは限らないことを認め、状況が変われば見方を修正することも必要です。

皆さんが今、気になっている銘柄や相場はどうでしょうか。

株価が上がっている理由、あるいは下がっている理由を、自分の言葉で説明できるでしょうか。

周りの意見を参考にしながらも、最後は自分で考える。その習慣を持つことが、相場と長く付き合っていくために大切なのだと思います。