投資で利益を増やそうとすると、どの銘柄が上がるのか、どのファンドなら高いリターンが期待できるのか、と考えがちです。
でも、運用成績を左右するのは、買ったものの値上がりだけではありません。忘れてはいけないのが、投資にかかるコストです。
この点を長年訴え続け、個人投資家の投資方法を大きく変えた人物が、ジョン・C・ボーグルです。
市場平均に投資するという発想
ボーグルは1975年、アメリカでバンガードを設立しました。彼が広めた考え方のひとつが、市場全体の値動きを表す指数に連動するインデックスファンドです。
それまでの投資信託では、運用の専門家が銘柄を選び、市場平均を上回る成績を目指す運用が重視されていました。
もちろん、市場平均を上回ることを目指す運用にも意味はあります。しかし、運用担当者が銘柄を選び、売買を繰り返すにはコストがかかります。それだけの費用を負担しても、長期的に市場平均を上回れるとは限りません。
そこでボーグルは、幅広い銘柄に分散して投資し、市場全体の動きに沿った成果を目指しながら、運用コストを抑える方法を追求しました。
派手な銘柄選びで市場に勝とうとするのではなく、投資家が負担するコストを減らし、市場全体の成長を取り込む。
この考え方は、今では多くの個人投資家にとって身近な選択肢になっています。
手数料の差は、長期になるほど無視できない
たとえば、100万円を年率5%で運用できたと仮定します。ここから毎年かかるコストを差し引くと、最終的な資産額にはどれほどの差が出るのでしょうか。
単純化して、年率5%の運用から年率1.5%のコストを差し引いた場合と、年率0.1%のコストを差し引いた場合を比べてみます。
税金や追加投資は考慮せず、毎年同じ収益率で複利運用できたと仮定すると、30年後の資産額は次のようになります。
- 年率1.5%のコスト:年率3.5%相当で運用し、約281万円
- 年率0.1%のコスト:年率4.9%相当で運用し、約422万円
同じ100万円から始めても、単純計算では約141万円の差が生まれます。
もちろん、実際の相場で毎年5%の収益が得られるわけではありません。運用成績は年によって変わり、損失が出ることもあります。また、実際のファンドでは信託報酬以外の費用や税金なども考える必要があります。
それでも、この例から分かるのは、コストが運用成果に与える影響は、短い期間だけでは判断できないということです。
投資先を選ぶときには、期待できるリターンだけでなく、何にどれだけの費用を払うのかも確認しておきたいところです。
インデックス投資なら、安心なのか
ここで、ひとつ気をつけたいことがあります。
インデックスファンドは、個別株を一つずつ選ぶよりも分散しやすく、低コストの商品も多くあります。しかし、インデックス投資だからといって、損をしないわけではありません。
たとえば、株式市場全体が大きく下落すれば、その指数に連動するファンドも値下がりします。投資する地域や指数によって、組み入れられる企業や業種にも偏りがあります。
また、低コストであることは大切ですが、それだけで商品を決めてよいわけでもありません。どの指数に連動するのか、どの地域や資産に投資するのか、自分が必要とする期間やリスクに合っているのか。こうした点も確認する必要があります。
ボーグルの考え方は、「何も考えずに積み立てればよい」という話ではないのです。
投資にかかる費用を理解し、無理に市場を出し抜こうとせず、自分が長く続けられる仕組みを選ぶ。そのための考え方だと捉えると、より実践的ではないでしょうか。
投資で大切なのは、増やすことだけではない
投資を始めると、どうしても「もっと利益を出したい」という気持ちが強くなります。
けれど、利益を増やす方法を探す一方で、余計なコストを払っていないか、必要以上に売買していないか、自分の目的に合わない商品を選んでいないか、と振り返ることも大切です。
大きな利益を狙うことだけが、投資の工夫ではありません。避けられるコストを減らすことも、投資家自身ができる工夫のひとつです。
ジョン・C・ボーグルが残した功績は、個人投資家が市場全体に投資するための仕組みを広めたこと。そして、投資家が自分でコントロールできることに目を向けさせたことにあると思います。
相場の値動きや将来のリターンは、自分の思いどおりにはなりません。
だからこそ、投資先を選ぶときには、こんな問いを持ってみてはいかがでしょうか。
私は、期待する利益ばかりを見て、確実に確認できるコストを見落としていないだろうか。
投資の成果を考えるとき、リターンだけでなく、その裏側にあるコストにも目を向けておきたいものです。



