ナシーム・ニコラス・タレブ|相場を予想する前に、外れたときのことを考える

明日は株価が上がるのか、それとも下がるのか。

投資をしていると、つい先の値動きを知りたくなります。専門家の予想を読み、経済指標を確認し、チャートから次の動きを考える。

もちろん、相場を分析することは大切です。

ただ、どれだけ調べても、未来を完全に予測することはできません。想定していなかった出来事が起き、それまでの見通しが一気に崩れることもあります。

こうした「予測できなかったこと」の怖さを考えるうえで、参考になる人物がいます。『ブラック・スワン』の著者、ナシーム・ニコラス・タレブです。

当たり前だと思っていたことが、突然変わる

タレブは、金融市場でトレーダーとして活動した経験を持つ著者です。彼の著書『ブラック・スワン』は、めったに起きないと考えられていた出来事が、社会や市場に大きな影響を与えることをテーマにしています。

「ブラック・スワン」とは、もともと珍しい出来事の象徴です。ヨーロッパでは、黒い白鳥は存在しないと考えられていました。しかし、オーストラリアで黒い白鳥が発見され、その前提が覆されました。

タレブはこの話を、私たちが物事を理解するときの思い込みと結びつけました。

過去に経験したことがないから、これからも起きないとは限りません。今まで大丈夫だったから、次も大丈夫だとも言い切れません。

株式市場でも同じです。

長い間、株価が順調に上がり続けていると、「少し下がっても、すぐに戻るだろう」と考えたくなります。しかし、金融危機や地政学的な混乱、予想外の政策変更などによって、市場の前提そのものが変わることがあります。

問題は、そうした出来事を事前に正確に当てるのが難しいということです。

予想が当たることと、投資で生き残ることは違う

たとえば、ある投資家が「今後、株価は上がる」と予想したとします。

実際に株価が上がれば、その判断は正しかったように見えます。

では、予想が外れた場合はどうでしょうか。

資産の大部分を一つの銘柄に投じていたら、株価の急落によって大きな損失を抱えるかもしれません。信用取引で大きな建玉を持っていたら、損失が膨らみ、思いどおりのタイミングで取引を終えられなくなる可能性もあります。

反対に、投資額を抑え、資産を分散し、損失が一定以上に膨らまないように管理していれば、予想が外れても次の判断に進める余地を残せます。

ここで考えたいのは、予想の精度だけではありません。

予想が外れたとき、自分はどれくらいの損失を受け入れられるのか。

この問いは、銘柄を選ぶときと同じくらい重要です。

「めったに起きない」は、安全の証明にならない

投資では、過去のデータを参考にすることがよくあります。

過去の値動きや最大下落率、企業の業績、市場の変動などを調べることは、リスクを考えるうえで役立ちます。

ただし、過去に大きな下落がなかったからといって、将来も下落しないとは限りません。

過去のデータに現れていない出来事や、複数の問題が重なった状況までは、十分に捉えられないことがあるからです。

だからといって、データ分析に意味がないわけではありません。データから分かることと、データだけでは分からないことを区別する必要があるのです。

たとえば、株価が10%下落した場合に資産がどれくらい減るのか。20%下落したらどうか。さらに、相場が急落したときに生活資金まで影響を受けないか。

こうした複数のケースを考えておけば、将来を正確に予測できなくても、事前に準備できることがあります。

暴落を当てるより、暴落に耐えられるか

相場が大きく下がる前に売り抜けられたら、理想的かもしれません。

しかし、暴落の時期を正確に当て続けることは簡単ではありません。下落を警戒しすぎて早く売り、その後の上昇を逃すこともあります。

一方で、何があっても保有を続ければよいというわけでもありません。投資した理由が崩れた場合や、資金管理上の限界に達した場合には、判断を見直す必要があります。

大切なのは、上がるか下がるかを考えるだけでなく、どちらに動いても対応できる準備をしておくことです。

保有する銘柄や資産が偏りすぎていないか。信用取引の規模は大きすぎないか。急落したときに、慌てて売らなければならない資金を投じていないか。

そして、自分の想定を超える事態が起きたとき、どこで何を見直すのか。

こうした問いを持つことは、弱気になることではありません。長く投資を続けるための準備です。

自分の予想を、絶対だと思わない

タレブの考え方から学べるのは、未来を当てる技術だけに頼らないことです。

相場には、予想できることもあれば、予想が難しいこともあります。どれだけ経験を積んでも、すべてを見通すことはできません。

だからこそ、自分の予想に自信があるときほど、反対の展開を考えてみる。

「もし、この予想が外れたら?」

「この銘柄が大きく下がったら、資産全体にどんな影響が出るだろう?」

「今の投資額は、想定外の出来事が起きても耐えられる範囲だろうか?」

投資判断をするとき、こうした問いを持っているでしょうか。

利益を得る方法を考えることは、もちろん大切です。ただ、それと同時に、予想が外れたときに致命的な損失を避ける方法も考えておきたいものです。

相場を完全に予測することはできません。それでも、どれくらいのリスクを取るのか、どんな状況なら撤退するのか、自分で決めておくことはできます。

大切なのは、いつも予想を当てることではなく、予想が外れても次の判断ができる状態を残しておくこと。

タレブの考え方は、そんな投資の基本を改めて考えるきっかけを与えてくれます。