売上が伸びている。利益も増えている。決算書を見る限り、悪くない会社に見える。
でも、その会社はこれからも成長を続けられるのでしょうか。
今の業績が良いことと、将来にわたって利益を生み出せることは、同じではありません。競争相手が現れるかもしれませんし、主力商品が時代に合わなくなることもあります。
では、企業の将来性を考えるとき、決算書の数字以外に何を見ればいいのでしょうか。
この問いを考えるうえで参考になるのが、成長株投資の先駆者として知られるフィリップ・フィッシャーです。
企業の価値は、決算書だけでは測れない
フィリップ・フィッシャーは、1931年に投資助言会社を設立し、長年にわたって企業分析と投資に取り組みました。
1958年に出版した著書『Common Stocks and Uncommon Profits』は、成長株投資を考えるうえで広く知られる一冊です。ウォーレン・バフェットも、この本から影響を受けた投資家の一人として知られています。
フィッシャーが重視したのは、現在の利益や株価が割安かどうかだけではありません。
その会社には、これから売上を伸ばしていく余地があるのか。新しい製品や技術を生み出す力があるのか。経営陣は、将来の成長に向けて適切な判断をしているのか。
こうした点を深く調べることが、長期的に成長する企業を見つける手がかりになると考えました。
「スカットルバット」という調査方法
フィッシャーの考え方で、特に知られているのが「スカットルバット」と呼ばれる調査方法です。
少し聞き慣れない言葉ですが、簡単にいえば、会社が公表する情報だけでなく、その企業を取り巻く人や環境からも情報を集め、実態を理解しようとする方法です。
たとえば、ある会社が新しい製品を発売したとします。
会社の発表では、画期的な製品で、大きな市場が期待できると説明されています。決算説明資料にも、成長への意欲が書かれています。
それだけで、将来の成功を判断してよいでしょうか。
実際に商品を使う顧客は、どこに魅力を感じているのか。競合企業と比べて、本当に優れた点があるのか。取引先や業界関係者から見て、その会社にはどんな強みがあるのか。
こうした情報を複数の方向から集めることで、会社が発信する説明だけでは分からないことが見えてくる場合があります。
もちろん、個人投資家が企業の取引先や競合他社に直接話を聞くのは簡単ではありません。だからといって、この考え方が役に立たないわけではありません。
顧客の評価、製品の使われ方、競合商品の動き、業界の変化など、公開されている情報を照らし合わせるだけでも、企業を多面的に理解する助けになります。
大切なのは、一つの情報を見てすぐに結論を出さないことです。
本当に強い会社は、何が違うのか
企業の強さを考えるとき、私は次のような点を調べることが大切だと思います。
まず、商品やサービスに競争力があるかどうか。
一時的な流行で売れているのか、それとも顧客が継続して使いたいと思う理由があるのか。競合企業が似た商品を出してきたときにも、選ばれ続けることができるのか。
次に、研究開発や新しい事業への取り組みです。
今の主力商品が好調でも、企業が次の成長の種を育てていなければ、将来の競争力が弱まる可能性があります。ただし、研究開発費が多ければ必ず良いというわけではありません。投じた資金が、実際に商品や利益につながっているかも確認する必要があります。
そして、経営陣の判断です。
業績が良いときに、将来のための投資を続けられるか。問題が起きたときに、都合の悪い事実を認めて修正できるか。株主に向けた説明と、実際の経営行動に食い違いがないか。
こうした点は、一つの数字だけでは判断しにくいものです。
だからこそ、決算書を読むことに加えて、その数字が生まれる背景まで考える必要があります。
良い会社なら、どんな株価でも買っていいのか
ここで、もう一つ忘れてはいけないことがあります。
企業の成長性を調べることと、その株を今買うべきかどうかは、別の問題です。
将来性のある会社でも、株価がすでに高い成長を織り込んでいれば、期待どおりに業績が伸びても株価が上がらないことがあります。反対に、業績が良くても市場の期待に届かなければ、株価が下落することもあります。
企業を深く調べるほど、その会社に期待したくなることもあるでしょう。
でも、調べた時間や労力が大きいからといって、投資判断が正しいとは限りません。自分が気に入った企業ほど、悪い情報にも目を向ける必要があります。
「この会社の強みは、何年後も続いているだろうか」
「競合が同じことを始めたら、どうなるだろうか」
「成長が予想を下回った場合、今の株価は妥当だろうか」
こうした問いを持つことで、企業への期待と、投資としての判断を分けて考えやすくなります。
数字を読む。その先まで考える
フィッシャーの考え方は、決算書を軽視するものではありません。数字を確認したうえで、その数字だけでは見えない企業の実態にも目を向けよう、というものです。
売上や利益が伸びている理由は何か。その成長は続きそうなのか。経営陣は信頼できるのか。競争力を維持する仕組みがあるのか。
こうしたことを考えるには時間がかかりますし、調べたからといって将来を正確に予測できるわけでもありません。
それでも、企業を知ろうとする過程で、見落としていたリスクや、自分が期待しすぎていた部分に気づけることがあります。
株価の動きだけを追っていると、どうしても「上がるか、下がるか」に意識が向きがちです。
ときにはチャートから離れ、その会社が何で利益を生み、なぜ顧客に選ばれ、これからどんな課題に直面するのかを考えてみる。
私はこの会社の株が欲しいのか。それとも、この会社の事業そのものに、長く成長できる理由があると考えているのか。
この二つを区別してみることが、企業分析を深める第一歩になるのではないでしょうか。



