株価が上がりそうな理由を見つけたとき、私たちは「これは買う価値がある」と考えます。
業績がいい。将来性がある。これから成長しそうだ。
でも、そこで一度立ち止まって考えたいことがあります。
その期待は、すでに株価に織り込まれていないだろうか。
この視点を投資家に問いかけてきた人物が、ハワード・マークスです。
みんなが正しいと思っているときこそ、考える
ハワード・マークスは、投資会社オークツリー・キャピタル・マネジメントの共同会長として知られる投資家です。特に、信用力の低い企業の債券や、経営難に陥った企業の債務など、リスクの見極めが重要になる分野で経験を積んできました。
彼の投資哲学で印象的なのは、単に利益を追いかけるのではなく、リスクをどう捉えるかを重視していることです。
たとえば、ある企業の業績が好調で、将来も成長が期待できるとします。
多くの投資家がその企業に注目し、株価も大きく上がっている。
ここで「いい会社だから、まだ上がるだろう」と考えるのは自然なことです。
けれど、会社がいいことと、その株を今の価格で買って利益を得られることは、同じではありません。
将来の成長が誰の目にも明らかになっているなら、その期待はすでに株価に反映されているかもしれません。業績が予想どおりに伸びても、投資家の期待を上回れなければ、株価が思うように上がらないこともあります。
反対に、業績が悪いと見られている企業でも、市場の予想ほど悪くなければ株価が上がる場合があります。
株価を動かすのは、会社の良し悪しだけではないのです。
「二段階思考」で、もう一歩先を考える
マークスが著書『投資で一番大切な20の教え』などで紹介している考え方に、「二段階思考(Second-Level Thinking)」があります。
一段階目の思考は、目の前の情報から判断することです。
「この会社は業績がいい。だから株価は上がるだろう」
二段階目では、そこからさらに考えます。
「業績がいいことは、ほかの投資家も知っているのではないか。今の株価には、どこまでの成長が織り込まれているのだろう。もし期待ほど成長しなかったら、株価はどうなるだろう」
大切なのは、みんなと違う意見を持てばいい、ということではありません。
みんなと同じ情報を見ていても、価格や期待、そして予想が外れたときの影響まで考えること。それが二段階思考のポイントです。
もちろん、深く考えたからといって、必ず正しい判断ができるわけではありません。それでも、目の前の材料だけで飛びつくことは減らせるはずです。
利益を考える前に、損失の可能性を考える
マークスの投資哲学では、リスク管理も重要な位置を占めています。
投資をするとき、私たちはどうしても「いくら上がるだろう」と考えがちです。
でも、本当に確認しておきたいのは、予想が外れた場合に何が起きるか、ということです。
期待していた業績が出なかったら、株価はどれくらい下がる可能性があるのか。
株価が下がったとき、自分はその損失に耐えられるのか。
そもそも、なぜこの価格で買おうとしているのか。
こうした問いを持つことは、弱気になることではありません。自分の判断にどんな前提があるのかを、あらかじめ確かめておくことです。
相場は、いつも予想どおりに動くわけではありません。どれだけ調べても、未来を完全に知ることはできないのです。
だからこそ、予想を当てることだけに力を注ぐのではなく、外れたときにどうするかも考えておく必要があります。
相場の中で、自分の考えを点検する
ハワード・マークスの考え方は、特別な情報を持つプロの投資家だけのものではありません。
私たちが普段、株を買おうか迷ったときにも使えます。
「この会社は成長しそう」と思ったら、もう一歩先へ。
ほかの投資家も同じように考えていないか。今の株価は、その期待をどこまで反映しているのか。もし予想が外れたら、自分はどうするのか。
こうしたことを考えるだけでも、投資判断の見え方は変わってきます。
株価が上がる理由を見つけることは大切です。でも、それだけでは十分ではありません。
自分の考えが正しいかどうかだけでなく、その考えは市場の期待と比べてどうなのか。
そして、間違っていたときに、どれだけの損失を受け入れることになるのか。
投資では、未来を言い当てること以上に、自分の判断を点検し続けることが大切なのだと思います。



