株価が上がると思って買ったのに、下がってしまう。
損切りしようと思っていたのに、「もう少し待てば戻るかもしれない」と考えて、なかなか売れない。
投資をしていると、こんな経験はないでしょうか。
相場の勉強をして、売買の方法を学んでも、実際にお金がかかると、そのとおりに行動するのは難しいものです。
そんなトレードの難しさを考えるうえで、興味深い人物がリチャード・デニスです。
少ない資金から、大きな成功を収めたトレーダー
リチャード・デニスは、アメリカの著名な先物トレーダーです。
若い頃から商品先物市場で取引を始め、少額の資金をもとに大きな成功を収めたことで知られています。
彼の名前が広く知られるきっかけのひとつとなったのが、1980年代の「タートルズ」と呼ばれるトレーダー育成実験でした。
デニスは、トレードの才能は生まれつき決まっているのか、それともルールや方法を学ぶことで身につけられるのか、という問いに関心を持っていました。
そこで、経験の少ない人たちを集め、売買ルールを教えて実際の市場で取引させたのです。
この参加者たちは、後に「タートルズ」と呼ばれるようになりました。
この話が興味深いのは、単に成功したトレーダーを育てたということではありません。
相場で利益を上げるために必要なのは、特別な才能なのか。それとも、再現できる方法と、それを実行する力なのか。
今でも考えさせられるテーマです。
ルールを知っていることと、守れることは違う
タートルズの取引手法は、価格の動きに従って売買するトレンドフォロー型の考え方を基本としていました。
簡単に言えば、上昇や下落の流れが確認できたら、その方向についていく方法です。
大切なのは、毎回の値動きを予想して当てようとするのではなく、あらかじめ決めた条件に従って行動することです。
たとえば、一定の条件を満たしたら買う。流れが崩れたら手仕舞う。損失が一定の範囲に達したら撤退する。
こうしたルールがあれば、その場の感情だけで売買することを減らせます。
ただし、ルールがあるからといって、毎回利益が出るわけではありません。
トレンドが続かず、買っては損切りする場面もあります。小さな損失が何度も続くこともあります。
そこでルールを疑い、条件を変え、次の取引では違うことをしてしまう。
このような行動を繰り返すと、本来の手法が持つ特徴を確かめることも難しくなります。
ルールを作ることと、ルールを使い続けること。その間には、大きな隔たりがあるのです。
勝率だけでは、トレードの良し悪しは分からない
もうひとつ、トレードで考えておきたいことがあります。
それは、勝率が高いことと、利益が残ることは同じではないという点です。
たとえば、10回取引して8回勝っても、負けた2回で大きな損失を出してしまえば、全体ではマイナスになることがあります。
反対に、勝率がそれほど高くなくても、損失を小さく抑え、利益が出る場面で十分な利益を伸ばせれば、長期的に利益が残る可能性があります。
もちろん、利益を伸ばせば必ずうまくいくわけではありません。手法によって、適した損切りや利益確定の考え方は異なります。
だからこそ、ひとつの取引だけで手法の良し悪しを判断するのではなく、一定のルールで取引を重ね、結果を検証することが必要になります。
「今日は勝った、負けた」だけで終わらせず、決めた条件を守れたのか、損失は想定の範囲内だったのか、というところまで振り返りたいものです。
自分のルールは、検証できるものになっているか
リチャード・デニスのタートルズの話から、私たちが考えたいのは、特別な売買手法を探すことだけではありません。
自分のトレードに、検証できるルールがあるかどうかです。
「チャートが良さそうだから買う」では、後から振り返ったときに、何が良かったのかが分かりません。
どの条件がそろったら入るのか。どんな状態になったら手仕舞うのか。損失が出た場合、どこまで許容するのか。
こうしたことを言葉にしておけば、結果が悪かったときにも、手法の問題なのか、ルールを守れなかったことが問題なのかを分けて考えられます。
ただし、ルールを守ることにこだわりすぎて、市場環境の変化を無視するのも危険です。ルールそのものが有効なのか、今の相場に合っているのかを、定期的に検証する必要があります。
ルールを守ることと、ルールを見直さないことは違います。
大切なのは、感情に任せてルールを変えないこと。そして、検証した結果に基づいて、必要な修正を行うことです。
相場を完全に予想することはできません。
それでも、自分が何を根拠に売買し、どこで間違いを認め、どうやって損失を管理するのかは、考えておくことができます。
リチャード・デニスの挑戦は、トレードの才能について考えるきっかけであると同時に、私たち自身の行動を振り返るきっかけにもなるのではないでしょうか。
自分は、相場を予想することに力を使いすぎていないだろうか。
それとも、決めたルールを実行し、その結果から学ぶことができているだろうか。
一度、自分の取引を振り返ってみたいと思います。



